業務の属人化は、多くの企業でよくある悩みです。
そのような課題を解決する手段の一つが「形式知化」です。
業務を進める中で得た知識や技術を形式知化すると、属人化が解消され、組織全体の生産性の向上が実現できます。
そこで今回は、形式知化の基本概念・手法・重要性・実践のポイントを分かりやすく解説します。
【目次】
形式知化とは
ここでは、形式知化について、以下の4点を解説します。
- 形式知とは
- 暗黙知とは
- 集合知とは
- 実践知とは
1つずつ見ていきましょう。
形式知とは
形式知とは、言語や文章、図解などの形で表現され、誰もが理解して共有できる知識のことを指します。
例えば、マニュアル・報告書・プレゼン資料・データベースに記録された情報などが、形式知に該当します。
形式知は、論理的に整理され、客観的に理解しやすいという特徴があります。共有可能な知識であり「明示的知識」と呼ばれることもあります。
また、形式知は伝達や保存がしやすい知識です。業務の標準化や人材育成に活用できるだけでなく、組織全体で知識を共有するときにも役立ちます。
暗黙知とは
暗黙知とは、個人が経験や感覚、直感を通じて得た知識のことです。
暗黙知の具体例としては、熟練者の技能や職人の手仕事・状況判断のコツ・長年の経験に基づく判断力などがあります。
暗黙知は価値のある情報ですが、言語や文章で明確に表現されるものではありません。具体的な形で共有されていないため、他者に伝えるのが難しいという特徴があります。
例えば、あるベテラン社員が持つ「なんとなくうまくいく方法」や「感覚的な問題解決能力」は、暗黙知のよくある例の1つです。
暗黙知を形式知にすることで、組織内で共有可能になり、業務効率化や人材育成に役立てられるでしょう。
関連記事:暗黙知とは?ナレッジマネジメントで形式知化すべき理由・役立つツールも解説
集合知とは
集合知とは、多くの人々の知識や経験、意見を集約し、意思決定や共有された知識としてまとめたものを指します。
具体例として、社内でのブレインストーミングやオンラインコミュニティでの意見交換が挙げられます。
個々の知識は限られていても、複数の人が協力して情報を共有し合うことで、より質の高い結果や解決策を出すことができます。
集合知を活用することで、個人では得られない多様な視点やアイデアが得られ、組織のイノベーションや効率化につながるでしょう。
実践知とは
実践知とは、理論や知識を現場での実践を通じて活用し、経験や状況に合わせて判断や行動を導き出す能力や知識のことを指します。
知識の蓄積ではなく、現実の場面で応用する力であるという特徴があります。
例えば、リーダーがチームの状況に応じて適切な指示を出す、医師が患者の状態に応じた治療を選ぶ、職人が経験を活かして細部に工夫を加えるといった行動が、実践知の一例です。
実践知を高めるには、経験を重ねるだけでなく、行動を振り返り、理論と結びつけていく必要があります。
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形式知化するための手法
ここでは、形式知化するための手法について、以下の4点を解説します。
- SECIモデルを実施する
- 共有の場を作る
- 知的財産を継承する仕組みを作る
- ナレッジマネジメントシステムを使う
1つずつ見ていきましょう。
SECIモデルを実施する
形式知化するための手法の1つ目は、SECIモデルを実施することです。
「SECIモデル」とは、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が提唱した知識創造のフレームワークです。
情報や知識を効率的に共有・活用するための4つのプロセスで構成されています。個々のプロセスは、下表の通りです。
共同化 (Socialization) |
人々が共同作業や経験共有を通じて暗黙知を伝え合い、新たな気づきや暗黙知を生み出す |
表出化 (Externalization) |
共有した暗黙知を文章や図、モデルに変換し、形式知として整理・共有する |
連結化 (Combination) |
整理された形式知を他の知識と統合し、新しい価値を創造する |
内面化 (Internalization) |
生み出された新しい知識や方法を振り返り、自身のスキルやノウハウとして吸収する |
上記のプロセスを繰り返すことで、組織は知識を更新し、蓄積されたナレッジを基に成長を続けられます。特に「表出化」は、暗黙知を形式知に変換する段階です。
表出化のプロセスを含めたSECIモデルの全体の各プロセスを繰り返し実践することで、ナレッジの共有と活用を促せるでしょう。
共有の場を作る
形式知化するための手法の2つ目は、共有の場を作ることです。 共有の場とは、従業員が意見やアイデアを自由に交換できる環境を指します。
例えば、定期的なミーティング、ワークショップなどが共有の場と言えます。個々の経験や暗黙知を他者に伝える場があることで、形式知化を進められます。
また、異なる部署や専門分野の人々が参加する場を設けると、多様な視点を取り入れて新たな形式知を作り出すことが可能です。
共有の場を構築することで、組織全体で知識を活用する力がつくでしょう。
知的財産を継承する仕組みを作る
形式知化するための手法の3つ目は、知的財産を継承する仕組みを作ることです。
具体的には、マニュアルや手順書や動画教材の作成、またはデジタル化されたナレッジベースを構築するなどの方法があります。
また、ベテラン社員による後輩の指導やメンター制度も、知識の継承には役立つでしょう。属人的な暗黙知を形式知化し、継承していくことが大切です。
ナレッジマネジメントシステムを使う
形式知化するための手法の4つ目は、ナレッジマネジメントシステムを使うことです。
暗黙知を形式知に変えて効果的に活用するには、知識を取り出しやすい場所に蓄積し、後から簡単に見つけられる状態にしておくことが大切です。
手段の1つとして、ナレッジマネジメントシステムの活用があります。
ナレッジマネジメントシステムには、クラウド型で手軽に導入できるものから、企業規模に応じたオンプレミス型まで多様な選択肢があります。
導入時には、シンプルな機能を備えたツールや、既存の業務ツールと連携可能なものを選ぶことで、導入効果を最大化できます。
また、直感的に使えるインターフェースのシステムを選ぶことで、従業員の使用率を高められます。
知識の共有と活用を促すためにも、自社にあったナレッジマネジメントシステムを導入することが大切です。
関連記事:ナレッジマネジメントシステムとは?導入メリット・デメリットと選び方
形式知化の重要性
ここでは、形式知化の重要性について、以下の3点を解説します。
- 属人化を防ぐ
- 生産性の向上
- 人材育成の効率化
1つずつ見ていきましょう。
属人化を防ぐ
形式知化の重要性の1つ目は、属人化を防ぐことです。
属人化とは、業務に必要な知識やスキルが特定の個人に依存してしまう状況を指します。属人化が起こると、担当者の異動や退職によって業務が滞りかねません。
個人が持つ暗黙知をマニュアルや手順書、デジタルナレッジベースなどに変換することで、属人化を防ぐことが可能です。
業務プロセスを標準化すれば、新しい担当者でも迅速に業務を引き継ぐことができます。
例えば、商品やサービスの問い合わせ対応手順を標準化しておけば、どの担当者でも同じ対応ができ、顧客満足度の向上につながるでしょう。
関連記事:業務の属人化とは?原因・リスクと改善するための5つのステップを解説
生産性の向上
形式知化の重要性の2つ目は、生産性の向上です。
優秀な従業員の持つ技術や思考を形式知化し、組織全体で共有することで、業務の質の向上が見込めます。
例えば、形式知をデータベースやナレッジマネジメントツールで管理すれば、従業員が自ら必要な情報に迅速にアクセスできる環境が整います。
不明点を検索して解決できるため、業務の効率化が見込めるでしょう。従業員一人一人が生産性を上げることができれば、企業全体の利益拡大にもつながります。
人材育成の効率化
形式知化の重要性の3つ目は、人材育成の効率化です。
業務に必要なノウハウやスキルを体系的に文書化することで、従業員が自らトレーニングや学習に活用できる状態になります。
新人や異動者でも、即戦力として活躍するための業務知識を習得可能です。
そして、具体的な手順書やトラブル対応マニュアルを作成しておくことで、経験豊富な従業員による指導の負担軽減も見込めます。
オンライン教材やナレッジベースを活用すれば、個々のペースに合わせて学習を進められるのも利点です。
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形式知化を実践するときのポイント
ここでは、形式知化を実践するときのポイントについて、以下の4点を解説します。
- 暗黙知を発掘する
- 形式知化の重要性を周知する
- 紙以外の媒体を使う
- IT化する
1つずつ見ていきましょう。
暗黙知を発掘する
形式知化を実践するときのポイントの1つ目は、暗黙知を発掘することです。
暗黙知を形式知に変えるためには、まず現場での経験やスキル、ノウハウを丁寧に洗い出す必要があります。
このとき、ベテラン社員へのインタビューや観察を行い、彼らが無意識に行っている工夫や判断基準を明らかにすることが有効です。
また、ワークショップやディスカッションを通じて、多様な視点から暗黙知を共有するのもよいでしょう。
暗黙知を発掘・記録し、言語化や図解を行うことで、他の従業員が理解しやすい形に整えられます。
形式知化の重要性を周知する
形式知化を実践するときのポイントの2つ目は、形式知化の重要性を周知することです。
形式知化に取り組む意義やメリットを従業員全員が理解していなければ、なかなか形式知化は進みません。
まず、形式知化による具体的な成果や成功事例を共有し、必要性を実感させることが重要です。
また、個々の従業員が形式知化を進める認識が持てるよう、研修や説明会を開催するのも効果的です。
形式知化を文化として根付かせるためにも、従業員に形式知化の重要性を伝えていくことが大切です。
紙以外の媒体を使う
形式知化を実践するときのポイントの3つ目は、紙以外の媒体を使うことです。
これまで暗黙知を形式知化する手法は、紙ベースのマニュアルが主流でした。多くの従業員が手元に置き、必要なときに参照することで知識を活用する形式です。
しかし、紙媒体は情報量が増えるにつれ、必要な情報を迅速に探し出すのが難しくなるという課題があります。
膨大な文書の中から目的の内容を探し出す作業は非効率で、結果的に形式知の活用が妨げられてしまいます。
紙媒体のみの形式知化には限界があるため、デジタル媒体を活用することが不可欠です。
IT化する
形式知化を実践するときのポイントの4つ目は、IT化することです。
ITツールを活用してナレッジマネジメントを行うことで、業務効率が向上します。
具体的には、イントラネットでの社内共有、単語検索が可能な文書管理ツール、従業員間で知識を提供し合うFAQシステムなどが挙げられます。
ただし、システムを導入するにはコストが伴うため、組織の状況やニーズを見極めて適切なタイミングで取り入れることが欠かせません。
音声や動画、クラウド型ツールなど、自社にあった手段を活用して、形式知の管理を行いましょう。
関連記事:【2024年版】ナレッジツールおすすめ13選を紹介!
まとめ
今回は、形式知化の基本概念・手法・重要性・実践のポイントを分かりやすく解説しました。
形式知化とは、暗黙知を言語や図表など共有可能な形に変えるプロセスで、業務効率化や属人化の防止、人材育成の効率化につながる重要な手法です。
形式知化のメリットには、知識の標準化や業務プロセスの改善、組織全体の生産性向上があります。
実践するときには、暗黙知の発掘や形式知化の重要性を組織内で共有することが大切です。形式知化は、単なる知識の保存手段ではなく、組織の成長の基盤を支えるものです。
本記事の内容を参考に、自社の知識活用を見直し、形式知化への第一歩を踏み出してみてください。
合わせて読みたい
- 異動や退職によるナレッジの引き継ぎがうまくいかない
- 必要なナレッジにすぐにアクセスできない
- タスク完了までの情報が分散していて、一つのナレッジとして見れない
上記のお悩みを解決するヒントがここにあります!
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